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生まれて初めて新しい自転車を買ってもらった。
わが家に届いたその日の様子は今も忘れない。 中学校までの一里 (約4キロ)。 その自転車で通うことになった。 黒い詰えりの学生服に、白線の入った黒い帽子、白い運動靴・・・。 春のひざしが輝いて満開の桜が、校庭で毎朝むかえてくれた。 そして中学校への道は小学校とは正反対なので、小学校へ向う先生と途中で行き会うのだった。 「おはようございま〜す」 と私は挨拶する。お互い自転車ですれ違う一瞬。その中の一人、3年生の担任だったS先生 (男) は、ベージュのレインコートを着て、いつも下を向きながらペダルを踏んでいた。 小学校3年生の時、それは学校の大掃除の日だった。 2階の教室を掃除していたのは私たち男子。一方、窓の下の校庭を掃除していたのはクラスの女子だった。 例によって私ら悪ガキは、何を血迷ったか、紙切れに落書きをして下の女子に次々とバラまいたのである。何を書いたかは憶えてないが日ごろの会話や態度に関する 「いちゃもん」 をつけたりしたと思う。 そして、その後事態は大変なことに発展する。 女子は私たちの書いたものを全部S先生に提出したのであった。掃除も終わり、生徒は全員帰って学校は静まりかえっていた。教室に残ったのは私たち悪ガキ4〜5人だった。 半そでに茶色のカバンをかかえたS先生がすごい形相で入ってくると廊下に立たされた。 話の内容は一切覚えていない。一人づつ 「往復ピンタ」 を思い切りくらった。そして廊下の反対側の板壁に 「ドーン」 と打ちつけられて廊下に転がった。それを2〜3回繰り返されたと思う。 「これから、こんな事は出来んな!」・・・ 最後にS先生はいつもこの言葉を残して去っていくのだった。S先生は背丈も大きく、威圧感がありとても怖い存在だった。 中学に通う道で、S先生とすれ違う度に、何度も殴られたことを思い出していた。 私は、S先生に感謝こそすれ恨みなど一つもないのだが、なぜかS先生は下を向いて寂しそうに挨拶して通りすぎたことを憶えている。当然ほかの悪ガキも、S先生とすれ違っているはずだ。 また私らの先輩とも・・・。多くの教え子とすれ違うS先生にしてみれば、全部の子にいちいち挨拶をしていられなかったのかも知れない。 一方私は、中学校へ入った喜びにあふれ身も心もさわやかな笑顔でペタルを踏んでいたのだった・・・・が。 あこがれの中学校へ通いだして一週間ほどしたある日、帰りの自転車置き場に行くと一年生の同じクラスの男子生徒二人がいた。そのうちの一人が、私を見るや否や、もう一人の男の生徒に 「おい、おい」 と呼びかけるようにして笑いながら、目で私を指差したのである。 もう一人の生徒は私を見たが、すぐに自転車に目を向けた。 この時私は、屈辱というより、何か淋しさを感じたことを憶えている。 「自分は他人から笑われる存在なんだ」・・・片方の目が小さいだけで。 左のまぶたより、右のまぶたが少し下がっているだけで他人は笑うんだ・・・と。 家路に向う新しい自転車のペタルをこぎながら、私は心の奥に冷たい風が入り込んできたような気持ちになった。 |